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デフレーション [日々つれづれ]

デフレーション―“日本の慢性病

デフレーション―“日本の慢性病"の全貌を解明する

  • 作者: 吉川 洋
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2013/01/19
  • メディア: 単行本

ちょっと古いですが、こんな本を引っ張り出してめくってみました。
デフレーション、つまり物価の下落が、わが国の経済に害を与えているから、年率2%のインフレを起こして景気を回復させようという主張はよく耳にします。いつまでたっても達成できない目標になっている感もあります。
しかし上記のような主張はそもそも間違っていて、根拠がないとバッサリ言い切っているのが本書です。「流動性のわなから抜け出すために期待インフレを生み出せ」というクルーグマンの提案は「しっかりとしたミクロ的基礎をもつマクロモデルということで・・我が国の政策論議にも影響を与えた」(吉川洋 デフレーション 日本経済新聞出版社 2013年 p139)そうですが、クルーグマンの提案はしっかりとした理論的根拠をもつものではない」(同書 p.139)と言います。「足元のデフレーションが逆に期待インフレーションを生み出すというのは、理論の中でのみ起こりうる倒錯した論理であり、現実には起こりえない。」(同書 p.143)

ポール・クルーグマンは米の著名な経済学者です。
わが国の異次元緩和など一連の金融政策は、その主張「インフレターゲットを掲げ、マネーサプライを異常なまでに増やせ!」(同書 pp.138-139)に沿ったものと思いますが、結果として、緩やかなインフレにつながっていませんし、まして経済が好転しているとはいえないのではないでしょうか(注1)。本書の指摘するようにマネーサプライを増やせばインフレになって経済が好転する、景気が良くなるというのは幻想だと私は思っています。よくいわれるように現下の日本経済の状況で、金融政策で実現できることは限られています(注2)。

よく、エコノミストのいうことはあてにならないといいますが、このようにデフレ脱却一つ取っても真逆のことを言う人がそれぞれにいますから、経済のことは、ほんとうに何が正しいのかさっぱりわからないとよくいわれます。私は、論理的に考えても貨幣数量を増やせば景気が良くなるという実感をもてないので、吉川さん(注3)の説が正しいと思います。いまの日本のような成熟し、低成長になった豊かな社会において貨幣流通量を増やしても実体経済に好影響を与えるのは難しいと思うのです。(高度成長期でしたら話は別です。)皆さんはどう思われますか。

(注1)円安、インフレを是とするのは間違っているという意見もあります。円安、つまり自国通貨の価値の減少をよしとするというのはたしかにちょっと倒錯しているように思います。
そもそも経済成長戦略とか言っている時点で、古い、すでに成熟しているのだから、現状維持で良いのだという主張もあります。

(注2)金融政策でとりうる手段はやりつくして、もう手がないという状況ではないでしょうか。そんななか過度の措置、やりすぎは副作用ばかりが目立ってしまいます。私は異次元緩和の巻き戻し、いわゆる出口戦略をどうするのかに興味があります。うまくやらないとこれこそ日本経済に深刻なダメージを与えることになります。

(注3)吉川洋先生は、東大大学院の教授。吉川さんのマクロ経済学の本は読みやすいです。私はくわしくありませんが、吉川先生はケインズ派といっていいのでしょうかね。これと対する概念は、「新古典派」ということになるのでしょう。経済学のなかで、GDP、貿易、為替など国民経済を扱うのがマクロ経済学で、企業や個人の行動を分析するミクロ経済学です。

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